昔話ー章1ー第10

章1-第 10

 

聴:

 

 

猫神(ねこがみ)

 

猫神

むかしむかし、佐世保(させぼ)の黒髪町(くろかみちょう)に、一人の侍がいました。
 侍は身重の奥さんと女中、それにタマという名の猫と、みんな仲良く暮らしていました。
 侍夫婦は大の猫好きで、二人の可愛がりようは大変なものでした。

 さてその頃、里では大イノシシが現れては、田畑を荒らしていました。
 百姓たちは困り果てて、侍にイノシシ退治を頼んだのです。
「民を守るのは侍の役目、引き受けましょう」 
 その夜、侍は弓矢を持ってイノシシ退治に出かけました。
 ところが奥さんは、心細くてなりません。
 なぜなら、お腹の赤ちゃんが、今夜あたりにも産まれる様な気がしたからです。
 それに女中も里帰り中なので、家には誰もいなくなってしまうからです。
「どうか、今夜は家にいて下さいませ」
 奥方はそう言いましたが、侍は、
「なに、すぐに戻って来る」
と、出かけてしまいました。
 里のはずれの湯田(ゆだ)の尾の池まで来た侍は、木陰に身をひそめてイノシシが現れるのを待っていました。
 するとその時、後ろで何やら気配がします。
 はっと弓を構えて振り向くと、何とそこには里へ帰っているはずの女中が立っていたのです。
「なぜここに? 里へ帰ったはずでは」
「・・・・・・」
 女中は答えず、何かを訴える様に侍に近づいて来ます。
「さては、お前は噂に聞くタヌキだな。よし、手始めに、まずはこのタヌキから」
 侍は、女中目掛けて矢を放ちました。
「ぎゃーーーっ!」
 確かな手応えを感じた侍がそこへ行ってみると、そこには血の跡しかありません。
「逃がさぬぞ!」
 侍が血の跡をたどってどんどん進んでいくと、何と自分の家まで続いていたのです。
「もしや、妻の身に何か!」
 侍が家に飛び込むと同時に、家の中から、
「オギャー、オギャー」
と、いう、赤ん坊の泣き声が響きました。
「おおっ、生まれたか!」
 侍はタヌキの事は忘れて、無事に赤ちゃんを産んでくれた妻の介抱をしました。

 翌朝、再び血の跡をたどって行った侍は、血の跡が続いている床の下をのぞいてびっくりです。
 何とそこには可愛がっていた猫のタマが、矢が刺さったまま死んでいたのです。
 猫のタマは女中に身を変えて、奥さんの出産を知らせに行ったのでした。
「そうか。そうだったのか。タマよ、許してくれ」
 侍は祠(ほこら)を立てると、タマの霊をなぐさめました。

 これが黒髪町(くろかみちょう)に残っている『猫神さま』と呼ばれる祠で、今も猫を可愛がる人のお参りが絶えないそうです。

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

猫神(ねこがみ)

 

猫神

むかしむかし、佐世保させぼの黒髪くろかみ町まちに、一いち人にんの侍さむらいがいました。

 侍さむらいは身重みおもの奥おくさんと女中じょちゅう、それにタマという名なの猫ねこと、みんな仲良なかよく暮くらしていました。
 
侍さむらい夫婦ふうふは大だいの猫ねこ好すきで、二に人にんの可愛かわいがりようは大変たいへんなものでした。

 さてその
頃ころ、里さとでは大だいイノシシが現あらわれては、田畑たはたを荒あらしていました。
 
百姓ひゃくしょうたちは困こまり果はてて、侍さむらいにイノシシ退治たいじを頼たのんだのです。
「
民みんを守まもるのは侍さむらいの役目やくめ、引ひき受うけましょう」 
 その
夜よる、侍さむらいは弓矢ゆみやを持もってイノシシ退治たいじに出でかけました。
 ところが
奥おくさんは、心細こころぼそくてなりません。
 なぜなら、お
腹なかの赤あかちゃんが、今夜こんやあたりにも産うまれる様ような気きがしたからです。
 それに
女中じょちゅうも里帰さとがえり中ちゅうなので、家いえには誰だれもいなくなってしまうからです。
「どうか、
今夜こんやは家いえにいて下くださいませ」
 
奥方おくがたはそう言いいましたが、侍さむらいは、
「なに、すぐに
戻もどって来くる」
と、
出でかけてしまいました。
 
里さとのはずれの湯田ゆだ(ゆだ)の尾おの池いけまで来きた侍さむらいは、木陰こかげに身みをひそめてイノシシが現あらわれるのを待まっていました。
 するとその
時とき、後うしろで何なにやら気配けはいがします。
 はっと
弓ゆみを構かまえて振ふり向むくと、何なんとそこには里さとへ帰かえっているはずの女中じょちゅうが立たっていたのです。
「なぜここに? 
里さとへ帰かえったはずでは」
「・・・・・・」
 
女中じょちゅうは答こたえず、何なにかを訴うったえる様ように侍さむらいに近ちかづいて来きます。
「さては、お
前まえは噂うわさに聞きくタヌキだな。よし、手始てはじめに、まずはこのタヌキから」
 
侍さむらいは、女中じょちゅう目掛めがけて矢やを放はなちました。
「ぎゃーーーっ!」
 
確たしかな手応てごたえを感かんじた侍さむらいがそこへ行いってみると、そこには血ちの跡あとしかありません。
「
逃にがさぬぞ!」
 
侍さむらいが血ちの跡あとをたどってどんどん進すすんでいくと、何なんと自分じぶんの家いえまで続つづいていたのです。
「もしや、
妻つまの身みに何なにか!」
 
侍さむらいが家いえに飛とび込こむと同時どうじに、家いえの中なかから、
「オギャー、オギャー」
と、いう、
赤あかん坊ぼうの泣なき声ごえが響ひびきました。
「おおっ、
生うまれたか!」
 
侍さむらいはタヌキの事ことは忘わすれて、無事ぶじに赤あかちゃんを産うんでくれた妻つまの介抱かいほうをしました。

 
翌朝よくあさ、再ふたたび血ちの跡あとをたどって行いった侍さむらいは、血ちの跡あとが続つづいている床ゆかの下したをのぞいてびっくりです。
 
何なんとそこには可愛かわいがっていた猫ねこのタマが、矢やが刺ささったまま死しんでいたのです。
 
猫ねこのタマは女中じょちゅうに身みを変かえて、奥おくさんの出産しゅっさんを知しらせに行いったのでした。
「そうか。そうだったのか。タマよ、
許ゆるしてくれ」
 
侍さむらいは祠ほこら(ほこら)を立たてると、タマの霊れいをなぐさめました。

 これが黒髪くろかみ町まち(くろかみちょう)に残のこっている『猫ねこ神かみさま』と呼よばれる祠ほこらで、今いまも猫ねこを可愛かわいがる人ひとのお参まいりが絶たえないそうです。

 

 

おしまい

 

 

 

NHẬN XÉT

 
 

 
 
 
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