章5-第2

章5-第2

 

聴:

 

 

二羽のカモ

 

むかしむかし、京都に一人の男が住んでいました。

 男の家は貧乏でしたが、お嫁さんと二人で仲良く暮らしていました。
 ある日の事、お嫁さんに赤ちゃんが生まれました。
 ところがお嫁さんはお産のために体が弱っていたので、あまりお乳が出ません。
 そこでお嫁さんはお肉を食べて力を付けようと思い、夫に頼みました。
「わたし、お肉を食べたいのですけれど・・・」
 それを聞いて男は、
「それは、もっともだ。肉を食べて、はやく元気になってもらわないとな。お前のためにも、赤ん坊のためにも」
と、言いましたが、しかし男は貧乏で、お肉を買うお金がありません。
 男はいろいろと考えたあげく、
「よし、そうだ。自分で鳥を取りにいこう」
と、言いました。

 次の日、男は朝早く起きると、弓矢を持って家を出ました。
 そして、ミミドロ池という池にやって来ました。
 この池にはあまり人が来ないので、きっと水鳥がたくさんいると思ったのです。
 男は池まで来ると岸に生えた草の中に身をかくして、じっと水の上を見つめていました。
 すると一羽のカモが、草むらのかげから泳いで来ました。
 続いてもう一羽がやって来て、二羽のカモは仲良くこちらに近づいてきます。
 それは、メスとオスのカモでした。
 男はそっと、弓に矢をつがえましたが、
(夫婦だろうか? 仲の良いカモを殺すなんて、かわいそうだ)
と、思い弓と矢を置きました。
 しかし男は、また思い直しました。
 お肉を食べたがっている、お嫁さんの事を思ったからです。
(仕方ない。カモよ、許しておくれ)
 男が矢を放つと、矢は真っ直ぐにオスのカモに当たりました。
「それ、当たったぞ!」
 男は大急ぎで池に入って獲物を拾い上げると、すぐに家へ帰りました。
 男はさっそく、お嫁さんにカモの取れた事を話しました。
 そして、
「あすの朝は、カモを料理して食べような」
と、言うと、カモをさおにかけて寝ました。

 さて、その夜中の事です。
 男は、さおにかけたカモがバタバタと羽を動かしている音に目を覚ましました。
「おや? あのカモが、生きかえったのかな?」
 男が不思議に思いながら、あかりを持ってさおのところに行きました。
 すると昼に取ってきたカモは死んだままで、そのそばを一羽のカモがバタバタと羽ばたいているではありませんか。
「あっ! メスのカモだ。
 ミミドロ池でオスとならんで泳いでいた、あのメスガモに違いない。
 殺されたオスをしたって、あとをつけてきたのか」
 男はメスのカモを、じっと見つめました。
 カモはあかりを持った人間がそばに立っているのに少しも恐れる様子はなく、死んだオスのまわりを離れようとはしません。
 男はつい、ポロリと涙をこぼしました。
 すると、外の音に起き出したお嫁さんもやって来ました。
 お嫁さんは男の隣でじっとカモを見つめると、男に言いました。
「カモも人間も、相手を想う気持ちは一緒なのですね。ねえ、明日あのカモのお墓を作ってあげましょう」
「しかし、カモを食べないとお前の体は・・・」
「いいえ。わたしは病気ではありません。日がたてば、また元気になれますから」
 その朝、男はオスガモを持って、また池にやって来ました。
 そしてていねいにうずめてやると、小さなお墓を作ってやりました。

 それからしばらくたつと、お嫁さんはすっかり元気になりました。
 そして赤ちゃんと三人で、しあわせに暮らしたという事です。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

二羽のカモ

 

むかしむかし、京都きょうとに一いち人にんの男おとこが住すんでいました。
 
男おとこの家いえは貧乏びんぼうでしたが、お嫁よめさんと二に人にんで仲良なかよく暮くらしていました。
 ある
日ひの事こと、お嫁よめさんに赤あかちゃんが生うまれました。
 ところがお
嫁よめさんはお産さんのために体からだが弱よわっていたので、あまりお乳ちちが出でません。
 そこでお
嫁よめさんはお肉にくを食たべて力ちからを付つけようと思おもい、夫おっとに頼たのみました。
「わたし、お
肉にくを食たべたいのですけれど・・・」
 それを
聞きいて男おとこは、
「それは、もっともだ。
肉にくを食たべて、はやく元気げんきになってもらわないとな。お前まえのためにも、赤あかん坊ぼうのためにも」
と、
言いいましたが、しかし男おとこは貧乏びんぼうで、お肉にくを買かうお金かねがありません。
 
男おとこはいろいろと考かんがえたあげく、
「よし、そうだ。
自分じぶんで鳥とりを取とりにいこう」
と、
言いいました。

 
次つぎの日ひ、男おとこは朝あさ早はやく起おきると、弓矢ゆみやを持もって家いえを出でました。
 そして、ミミドロ
池ちという池いけにやって来きました。
 この
池いけにはあまり人じんが来こないので、きっと水鳥みずとりがたくさんいると思おもったのです。
 
男おとこは池いけまで来くると岸きしに生はえた草くさの中なかに身みをかくして、じっと水みずの上うえを見みつめていました。
 すると
一いち羽わのカモが、草くさむらのかげから泳およいで来きました。
 
続つづいてもう一いち羽わがやって来きて、二に羽わのカモは仲良なかよくこちらに近ちかづいてきます。
 それは、メスとオスのカモでした。
 
男おとこはそっと、弓ゆみに矢やをつがえましたが、
(
夫婦ふうふだろうか? 仲なかの良よいカモを殺ころすなんて、かわいそうだ)
と、
思おもい弓ゆみと矢やを置おきました。
 しかし
男おとこは、また思おもい直なおしました。
 お
肉にくを食たべたがっている、お嫁よめさんの事ことを思おもったからです。
(
仕方しかたない。カモよ、許ゆるしておくれ)
 
男おとこが矢やを放はなつと、矢やは真まっ直すぐにオスのカモに当あたりました。
「それ、
当あたったぞ!」
 
男おとこは大急おおいそぎで池いけに入はいって獲物えものを拾ひろい上あげると、すぐに家いえへ帰かえりました。
 
男おとこはさっそく、お嫁よめさんにカモの取とれた事ことを話はなしました。
 そして、
「あすの
朝あさは、カモを料理りょうりして食たべような」
と、
言いうと、カモをさおにかけて寝ねました。

 さて、その
夜中よなかの事ことです。
 
男おとこは、さおにかけたカモがバタバタと羽はねを動うごかしている音おとに目めを覚さましました。
「おや? あのカモが、
生いきかえったのかな?」
 
男おとこが不思議ふしぎに思おもいながら、あかりを持もってさおのところに行いきました。
 すると
昼ひるに取とってきたカモは死しんだままで、そのそばを一いち羽わのカモがバタバタと羽はばたいているではありませんか。
「あっ! メスのカモだ。
 ミミドロ
池ちでオスとならんで泳およいでいた、あのメスガモに違ちがいない。
 
殺ころされたオスをしたって、あとをつけてきたのか」
 
男おとこはメスのカモを、じっと見みつめました。
 カモはあかりを
持もった人間にんげんがそばに立たっているのに少すこしも恐おそれる様子ようすはなく、死しんだオスのまわりを離はなれようとはしません。
 
男おとこはつい、ポロリと涙なみだをこぼしました。
 すると、
外そとの音おとに起おき出だしたお嫁よめさんもやって来きました。
 お
嫁よめさんは男おとこの隣となりでじっとカモを見みつめると、男おとこに言いいました。
「カモも
人間にんげんも、相手あいてを想おもう気持きもちは一緒いっしょなのですね。ねえ、明日あしたあのカモのお墓はかを作つくってあげましょう」
「しかし、カモを
食たべないとお前まえの体からだは・・・」
「いいえ。わたしは
病気びょうきではありません。日ひがたてば、また元気げんきになれますから」
 その
朝あさ、男おとこはオスガモを持もって、また池いけにやって来きました。
 そしてていねいにうずめてやると、
小ちいさなお墓はかを作つくってやりました。

 それからしばらくたつと、お
嫁よめさんはすっかり元気げんきになりました。
 そして
赤あかちゃんと三さん人にんで、しあわせに暮くらしたという事ことです。

 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
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