章4-第12

章4-第12

 

聴:

 

 

縁結びの神さま

 

むかしから、出雲の神さまは、縁結びの神さまで有名でした。

 出雲の神さまは、毎日毎日、朝から晩まで何千組もの縁結びをしているのです。
 そして朝のうちは、
「うむ、あそこの息子は性格が良いから、ここの娘がいいだろう。あの息子は金持ちだから、反対にこの貧乏な家の娘と」
と、あれこれ考えながら縁結びをするのですが、それが昼頃になると、
「この息子は、この娘。あの娘は、この息子」
と、少しいい加減になり、やがて夕方になると、
「あれとこれ。これとあれ」
と、適当になってしまうのです。
 こうして朝のうちに縁結びされた夫婦は、末永く幸せに暮らすのですが、夕方に縁結びされた夫婦は、不幸な結果となってしまうのです。

 ところで縁結びの神さまにも娘がいて、今年で三十歳にもなるのですが、どこからも嫁に欲しいと声がかかりません。
 そこで娘は、父親に腹を立てて言いました。
「お父さん。他人の事よりも実の娘の方が大事じゃないの! あたしもいい年よ。早くあたしの相手を決めて下さい!」
 すると縁結びの神さまは、気まずそうに言いました。
「う、う―ん。実はな、もう、とっくに決まっていたのじゃ。じゃが、つい夕方に決めてしまい、あまりにも不似合いな縁になってしまったのじゃ。それで、今まで、言いそびれて・・・」
「お父さんが不似合いだと思っても、お嫁に行くのはあたしです! さあ、どこの誰が相手なのか、教えて下さい!」
「う、うーん。それなら言うが、実は遠い播磨の国(はりまのくに→兵庫県)の山奥で炭焼きをしておる、ひどく貧乏な男じゃ」
「わかりました。あたしは、もうこれ以上、待つ気はありません。どんなに遠くても、どんなに貧乏でもいいから、今すぐ、その人のところへ行きます!」
 娘はそう言うと旅の用意をして、旦那さんのいる山奥へと出かけました。
 そして何日も旅をして、ついに旦那さんになる炭焼きの男を見つけると、こう言いました。
「あたしは、あなたの嫁になる者です。今日から、ここに置いてもらいます」
 それを聞いた炭焼きの男は、びっくりです。
「いきなりそんな事を言われても、おれは知らんぞ。第一、おれは貧乏で、嫁をもらうどころではない。それに、お前さんみたいなきれいな人は、もっと良い家に行くべきじゃ」
「いいえ、あなたが何と言おうと、これは父、・・・縁結びの神さまが決めた事です。では、ここに荷物を置かせてもらいます」
「そんな事を言われても・・・」
 炭焼きの男は反対しましたが、娘は強引に嫁となって住み着いてしまいました。

 さて、もともと貧乏な家に二人が暮らす事になったので、家の米はたちまちなくなってしまいました。
 米びつをひっくり返しても、一粒の米も残っていません。
「あなた、お米がなくなりました。どうしましょう?」
 嫁が言うと、男は困った顔で言いました。
「米は、いつも炭と取り替えておるんじゃ。今焼いている炭が焼き上がるまで、我慢するしかないのだが、炭が焼き上がるまで、まだまだ時間がかかるし」
 すると娘は、持ってきた嫁入り道具の中から金の粒を出して言いました。
「それなら、これでお米を買ってきて下さい」
「なんじゃ? こんな物で、米と換えてくれるのか?」
 今まで、お金を見た事がない男には、不思議でなりません。
 けれど嫁が言うのなら間違いないだろうと、男はその金の粒を持って山を下りていきました。
 そして町へ出る途中の丸木橋で、男は金の小粒を一粒落としてしまったのです。
「あっ、しまった」
 男が川をのぞいてみると、金の小粒をエサと間違えた小魚が、金の小粒を突き始めました。
「こりゃ、面白い」
 男は楽しくなって、持ってきた金の小粒を次々とばらまき始めました。
 そして、手ぶらで戻ってきた男に、嫁が尋ねました。
「あら? あなた、お米はどうしました?」
「うん、実はお前のくれた粒は、みんな橋の下の魚にくれてやったんだ」
「まあ、なんともったいない! あれがあれば、何でも買えるのに」
 嫁が呆れていると、男は、
「それはすまんかった。しかし、あんな物でよければ、炭焼き窯(がま)の横に、なんぼでもあるから、明日取ってきてやろう」
と、言うのです。
 次の日、嫁が男について炭焼き窯に行ってみると、何と炭焼き窯の横は金山で、あちこちに金の塊がゴロゴロ転がっているのです。
 嫁は、びっくりして言いました。
「あなた。これだけあれば、もう、炭焼きで貧乏をする事はありません。これからは、幸せに暮らしましょう」
 こうして二人は、それから末永く幸せに暮らしたのです。

 縁結びの神さまが決めた縁談は、決して間違えはありません。
 例え夕方に決められた縁談でも、夫婦で力を合わせれば、必ず幸せになれるのです。 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

縁結びの神さま

 

むかしから、出雲いずもかみさまは、縁結えんむすびのかみさまで有名ゆうめいでした。

 出雲いずもかみさまは、毎日まいにち毎日まいにちあさからばんまでなんせんくみもの縁結えんむすびをしているのです。
 そして
あさのうちは、
「うむ、あそこの
息子むすこ性格せいかくいから、ここのむすめがいいだろう。あの息子むすこ金持かねもちだから、反対はんたいにこの貧乏びんぼういえむすめと」
と、あれこれ
かんがえながら縁結えんむすびをするのですが、それがひるごろになると、
「この
息子むすこは、このむすめ。あのむすめは、この息子むすこ
と、
すこしいい加減かげんになり、やがて夕方ゆうがたになると、
「あれとこれ。これとあれ」
と、
適当てきとうになってしまうのです。
 こうして
あさのうちに縁結えんむすびされた夫婦ふうふは、末永すえながしあわせにらすのですが、夕方ゆうがた縁結えんむすびされた夫婦ふうふは、不幸ふこう結果けっかとなってしまうのです。

 ところで
縁結えんむすびのかみさまにもむすめがいて、今年ことしさんじゅうさいにもなるのですが、どこからもよめしいとこえがかかりません。
 そこで
むすめは、父親ちちおやはらてていました。
「お
とうさん。他人たにんことよりもむすめほう大事だいじじゃないの! あたしもいいねんよ。はやくあたしの相手あいてめてください!」
 すると
縁結えんむすびのかみさまは、まずそうにいました。
「う、う―ん。
じつはな、もう、とっくにまっていたのじゃ。じゃが、つい夕方ゆうがためてしまい、あまりにも似合にあいなえんになってしまったのじゃ。それで、いままで、いそびれて・・・」
「お
とうさんが似合にあいだとおもっても、およめくのはあたしです! さあ、どこのだれ相手あいてなのか、おしえてください!」
「う、うーん。それなら
うが、じつとお播磨はりまくに(はりまのくに→兵庫ひょうごけん)の山奥やまおく炭焼すみやきをしておる、ひどく貧乏びんぼうおとこじゃ」
「わかりました。あたしは、もうこれ
以上いじょうはありません。どんなにとおくても、どんなに貧乏びんぼうでもいいから、いますぐ、そのひとのところへきます!」
 
むすめはそううとたび用意よういをして、旦那だんなさんのいる山奥やまおくへとかけました。
 そして
なんにちたびをして、ついに旦那だんなさんになる炭焼すみやきのおとこつけると、こういました。
「あたしは、あなたの
よめになるものです。今日きょうから、ここにいてもらいます」
 それを
いた炭焼すみやきのおとこは、びっくりです。
「いきなりそんな
ことわれても、おれはらんぞ。だいいち、おれは貧乏びんぼうで、よめをもらうどころではない。それに、おまえさんみたいなきれいなひとは、もっといえくべきじゃ」
「いいえ、あなたが
なんおうと、これはちち、・・・縁結えんむすびのかみさまがめたことです。では、ここに荷物にもつかせてもらいます」
「そんな
ことわれても・・・」
 
炭焼すみやきのおとこ反対はんたいしましたが、むすめ強引ごういんよめとなっていてしまいました。

 さて、もともと
貧乏びんぼういえにんらすことになったので、いえべいはたちまちなくなってしまいました。
 
こめびつをひっくりかえしても、一粒ひとつぶこめのこっていません。
「あなた、お
べいがなくなりました。どうしましょう?」
 
よめうと、おとここまったかおいました。
べいは、いつもすみえておるんじゃ。いまいているすみがるまで、我慢がまんするしかないのだが、すみがるまで、まだまだ時間じかんがかかるし」
 すると
むすめは、ってきた嫁入よめい道具どうぐなかからかねつぶしていました。
「それなら、これでお
こめってきてください」
「なんじゃ? こんな
ぶつで、べいえてくれるのか?」
 
いままで、おかねことがないおとこには、不思議ふしぎでなりません。
 けれど
よめうのなら間違まちがいないだろうと、おとこはそのかねつぶってやまりていきました。
 そして
まち途中とちゅう丸木橋まるきばしで、おとこかね小粒こつぶいちつぶとしてしまったのです。
「あっ、しまった」
 
おとこかわをのぞいてみると、かね小粒こつぶをエサと間違まちがえたしょうさかなが、かね小粒こつぶはじめました。
「こりゃ、
面白おもしろい」
 
おとこたのしくなって、ってきたかね小粒こつぶ次々つぎつぎとばらまきはじめました。
 そして、
ぶらでもどってきたおとこに、よめたずねました。
「あら? あなた、お
べいはどうしました?」
「うん、
じつはおまえのくれたつぶは、みんなきょうしたさかなにくれてやったんだ」
「まあ、なんともったいない! あれがあれば、
なにでもえるのに」
 
よめあきれていると、おとこは、
「それはすまんかった。しかし、あんな
ものでよければ、炭焼すみやかま(がま)のよこに、なんぼでもあるから、明日あしたってきてやろう」
と、
うのです。
 
つぎよめおとこについて炭焼すみやかまってみると、なん炭焼すみやかまよこ金山かなやまで、あちこちにかねかたまりがゴロゴロころがっているのです。
 
よめは、びっくりしていました。
「あなた。これだけあれば、もう、
炭焼すみやきで貧乏びんぼうをすることはありません。これからは、しあわせにらしましょう」
 こうして
にんは、それから末永すえながしあわせにらしたのです。

 縁結えんむすびのかみさまがめた縁談えんだんは、けっして間違まちがえはありません。
 
たと夕方ゆうがためられた縁談えんだんでも、夫婦ふうふちからわせれば、かならしあわせになれるのです。 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
 
 
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