第7

章3-第7

 

聴:

 

 

塩買い大黒

 

むかし、薩摩の国(さつまのくに→鹿児島県)で、塩がとても少なくなった年がありました。

 特に川内(せんだい)のあたりがひどく、奉平寺(たいへいじ)というお寺でも和尚さんや小僧が、毎日、朝から晩まで塩探しに走り回っていました。

 そんなある日です。
 本堂を掃除していた小僧は、本堂でどっかりと座っている大黒さんを見ながら、うらめしそうにつぶやきました。
「大黒さんは、よかね。
 みんなが塩不足で困っとるのに、いつものんびりとひまそうに。
 だいたい大黒さんは、福を持って来るのが仕事じゃろう。
 それが何もせんで、座っちょるだけか?
 そうじゃろ?
 なあ、黙っとらんで、何か言うてみい」
 しかし相手は木彫りの大黒さんなので、いくら文句を言っても返事をするわけがありません。
「けっ、こげん言っても、返事もなかか」
 腹が立った小僧は大黒さんを足でけりつけると、本堂を出て行きました。

 さて次の日、大変な事が起こりました。
 大黒さんの姿が、どこにもないのです。
 お寺のみんなはあちこち探しましたが、やっぱりどこにもありません。
「もしかして、泥棒にでも盗られたんじゃろか?」
「そうかもしれんな。何せ、これだけ探しても見つからんのじゃから」
「まあ、今は大黒さんよりも塩の方が大事じゃ」
「そうじゃな」
 やがてみんなは、大黒さんを探すのをあきらめてしまいました。

 それから、間もなくの事です。
 川内の港に、塩を山の様に積んだ船がやって来ました。
 川内の人々は大喜びで迎えましたが、誰が船を頼んだのか分かりません。
 そこで船頭に聞いてみると、
「それが四、五日前に、『川内に塩を届けてくれ』ちゅうて、どっさり金を置いて行った人がおったのです。
 何とも変わった格好の客でな。
 大きな袋かついで、頭巾をかぶっとったよ」
と、首をかしげて答えるのです。
 それを聞いた小僧は、びっくりです。
「そっ、その格好は、大黒さんじゃ。まさかうちの大黒さんが」
 そしてあわてて寺に戻った小僧は、本堂を見てびっくり。
 何と大黒さんが、ちゃんと元の場所に座っているではありませんか。
 しかも大黒さんの足が砂で汚れており、おまけにその砂が本堂の縁側からずっと続いているのです。
 さらによく見ると、大黒さんのかついでいる大きな袋が、前よりも少し小さくなっているのです。
 小僧はその場にひれ伏すと、
「大黒さん、この前は失礼しました! そして塩を、ありがとごわした」
と、手を合わせて謝ったそうです。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

塩買い大黒

 

むかし、薩摩さつまくに(さつまのくに→鹿児島かごしまけん)で、しおがとてもすくなくなったとしがありました。
 
とく川内かわうち(せんだい)のあたりがひどく、たてまつひらてら(たいへいじ)というおてらでも和尚おしょうさんや小僧こぞうが、毎日まいにちあさからばんまでしおさがしにはしまわっていました。

 そんなある
です。
 
本堂ほんどう掃除そうじしていた小僧こぞうは、本堂ほんどうでどっかりとすわっている大黒おおくろさんをながら、うらめしそうにつぶやきました。
大黒おおくろさんは、よかね。
 みんなが
しお不足ふそくこまっとるのに、いつものんびりとひまそうに。
 だいたい
大黒おおくろさんは、ぶくってるのが仕事しごとじゃろう。
 それが
なにもせんで、すわっちょるだけか?
 そうじゃろ?
 なあ、
だまっとらんで、なにうてみい」
 しかし
相手あいて木彫きぼりの大黒おおくろさんなので、いくら文句もんくっても返事へんじをするわけがありません。
「けっ、こげん
っても、返事へんじもなかか」
 
はらった小僧こぞう大黒おおくろさんをあしでけりつけると、本堂ほんどうきました。

 さて
つぎ大変たいへんことこりました。
 
大黒おおくろさんの姿すがたが、どこにもないのです。
 お
てらのみんなはあちこちさがしましたが、やっぱりどこにもありません。
「もしかして、
泥棒どろぼうにでもぬすめられたんじゃろか?」
「そうかもしれんな。
なにせ、これだけさがしてもつからんのじゃから」
「まあ、
いま大黒おおくろさんよりもしおほう大事だいじじゃ」
「そうじゃな」
 やがてみんなは、
大黒おおくろさんをさがすのをあきらめてしまいました。

 それから、
もなくのことです。
 
川内せんだいみなとに、しおやまようんだふねがやってました。
 
川内せんだい人々ひとびとだいよろこびでむかえましたが、だれふねたのんだのかかりません。
 そこで
船頭せんどういてみると、
「それが
よんにちまえに、『川内せんだいしおとどけてくれ』ちゅうて、どっさりかねいてったひとがおったのです。
 
なんともわった格好かっこうきゃくでな。
 
おおきなふくろかついで、頭巾ずきんをかぶっとったよ」
と、
くびをかしげてこたえるのです。
 それを
いた小僧こぞうは、びっくりです。
「そっ、その
格好かっこうは、大黒おおくろさんじゃ。まさかうちの大黒おおくろさんが」
 そしてあわてて
てらもどった小僧こぞうは、本堂ほんどうてびっくり。
 
なん大黒おおくろさんが、ちゃんともと場所ばしょすわっているではありませんか。
 しかも
大黒おおくろさんのあしすなよごれており、おまけにそのすな本堂ほんどう縁側えんがわからずっとつづいているのです。
 さらによく
ると、大黒おおくろさんのかついでいるおおきなふくろが、まえよりもすこちいさくなっているのです。
 
小僧こぞうはそのにひれすと、
大黒おおくろさん、このまえ失礼しつれいしました! そしてしおを、ありがとごわした」
と、
わせてあやまったそうです。
 

おしまい

 
 
 
 
 
 
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