第2

章3-第2

 

聴:

 

 

魚石

 

むかしむかし、長崎の唐人屋敷(とうじんやしき→江戸時代、長崎に作られた中国人村)に近い篭町(かごまち)に、伊勢屋(いせや)という欲張りな主人がいました。

 ある日、唐人屋敷のアチャさんが中国へ帰る事になり、お世話になった伊勢屋の主人へあいさつに行ったのですが、その時、アチャさんは伊勢屋の土蔵の石垣の中から青く光る石を見つけたのです。
「!!! これは・・・」
 青く光る石をしばらく見つめいたアチャさんは、伊勢屋の主人に青く光る石を売ってくれるように頼みました。
 すると伊勢屋の主人は、アチャさんに気軽に言いました。
「へえ、こんな石が欲しいのですか?
 別にお金なんか出さなくても、ただであげますよ。
 ちょうど来週、石垣の建て替えをしますから、その時まで待ってくださいね」 
「いいえ。
 わたし、今日の船で中国へ帰ります。
 石垣を建て替えるお金、わたし全部出しますから、はやく下さい」
 そのアチャさんのあせり方を見た主人は、ふと思いました。
(もしかしたら、中国では大変値打ちのある石に違いない)
 そこで主人は、いかにも思い出したように言いました。
「ああ、すみません。
 その石はある長者に、百両でお譲りする約束をしていました」
「わかった。では、わたし二百両出すよ」
「二百両ですか。
 ああそうそう、長者は他にも、オランダから入ってきたシャボンという物もつけると」
「わかった。三百両出すよ」
「それから長者は、カステラという物もつけると」
「わかった。四百両出すよ」
「さらに長者は・・・」
「わかった。
 わたし、五百両出すね。
 でも今は、そんな大金持ってないから、一度中国へ帰り、次に長崎に来た時に持って来るね」
 アチャさんは主人にそう言って、中国へ帰って行きました。

 それを見送った主人は、石垣の青い石を見ながら大喜びです。
「やった、やった!
 こんな石ころが、五百両になるなんて。
 ・・・いや、待てよ。
 もしかするとこれは、五百両以上の価値があるのかもしれない。
 それなら、五百両で売るのはもったいないな。
 よし、これを取り出して、目利きの人に見てもらおう。
 五百両以上の価値なら、もっと値をつり上げてやるか」
 そこで主人は職人を呼んで、石を取り出しました。
 取り出した青い石をよく見ると、何か水のような物が入っています。
「これは、何だろう?」
 主人は太陽の光に透かして中を見ようとしましたが、その時、うっかり手を滑らせて青い石を落としてしまいました。
 落ちた青い石は二つに割れて、中から水と一緒に生きた金魚が飛び出します。
「しまった。五百両の石を壊してしまった!」

 翌年、再び長崎にやって来たアチャさんは、すぐに伊勢屋へやって来ました。
「五百両、持って来たね。
 石垣を建て替えるお金も、わたし出すね。
 だからあの石を、早く下さい」
「それが・・・」
 困った主人は、仕方なしに割れた石と死んだ金魚を見せて、全ての事を話しました。
 するとアチャさんは、ポロポロと涙をこぼしながら言いました。
「あの石は、魚石です。
 丁寧に磨くと、中の金魚が泳いでいるのが見えます。
 わたしの国ではこれを見ると、とても長生きできると言われています。
 でも金魚が死んでしまっては、一両の価値もありません」
「何と! それは、もうけそこなった」
 話を聞いた主人も、くやし涙をポロポロとこぼしました。


 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

魚石

 

むかしむかし、長崎ながさき唐人とうじん屋敷やしき(とうじんやしき→江戸えど時代じだい長崎ながさきつくられた中国人ちゅうごくじんむら)にちかかごまち(かごまち)に、伊勢屋いせや(いせや)という欲張よくばりな主人しゅじんがいました。

 ある
唐人とうじん屋敷やしきのアチャさんが中国ちゅうごくかえことになり、お世話せわになった伊勢屋いせや主人しゅじんへあいさつにったのですが、そのとき、アチャさんは伊勢屋いせや土蔵どぞう石垣いしがきなかからあおひかいしつけたのです。
「!!! これは・・・」
 
あおひかいしをしばらくつめいたアチャさんは、伊勢屋いせや主人しゅじんあおひかいしってくれるようにたのみました。
 すると
伊勢屋いせや主人しゅじんは、アチャさんに気軽きがるいました。
「へえ、こんな
せきしいのですか?
 
べつにおかねなんかさなくても、ただであげますよ。
 ちょうど
来週らいしゅう石垣いしがきえをしますから、そのときまでってくださいね」 
「いいえ。
 わたし、
今日きょうふね中国ちゅうごくかえります。
 
石垣いしがきえるおかね、わたし全部ぜんぶしますから、はやくください」
 そのアチャさんのあせり
かた主人しゅじんは、ふとおもいました。
(もしかしたら、
中国ちゅうごくでは大変たいへん値打ねうちのあるいしちがいない)
 そこで
主人しゅじんは、いかにもおもしたようにいました。
「ああ、すみません。
 その
いしはある長者ちょうじゃに、ひゃくりょうでおゆずりする約束やくそくをしていました」
「わかった。では、わたし
ひゃくりょうすよ」
ひゃくりょうですか。
 ああそうそう、
長者ちょうじゃにも、オランダからはいってきたシャボンというものもつけると」
「わかった。
さんひゃくりょうすよ」
「それから
長者ちょうじゃは、カステラというものもつけると」
「わかった。
よんひゃくりょうすよ」
「さらに
長者ちょうじゃは・・・」
「わかった。
 わたし、
ひゃくりょうすね。
 でも
いまは、そんな大金たいきんってないから、一度いちど中国ちゅうごくかえり、つぎ長崎ながさきときってるね」
 アチャさんは
主人しゅじんにそうって、中国ちゅうごくかえってきました。

 それを
見送みおくった主人しゅじんは、石垣いしがきあおいしながらだいよろこびです。
「やった、やった!
 こんな
いしころが、ひゃくりょうになるなんて。
 ・・・いや、
てよ。
 もしかするとこれは、
ひゃくりょう以上いじょう価値かちがあるのかもしれない。
 それなら、
ひゃくりょうるのはもったいないな。
 よし、これを
して、目利めききのひとてもらおう。
 
ひゃくりょう以上いじょう価値かちなら、もっとをつりげてやるか」
 そこで
主人しゅじん職人しょくにんんで、いししました。
 
したあおいしをよくると、なにみずのようなものはいっています。
「これは、
なにだろう?」
 
主人しゅじん太陽たいようひかりかしてなかようとしましたが、そのとき、うっかりすべらせてあおいしとしてしまいました。
 
ちたあおいしふたつにれて、ちゅうからみず一緒いっしょきた金魚きんぎょします。
「しまった。
ひゃくりょういしこわしてしまった!」

 
翌年よくねんふたた長崎ながさきにやってたアチャさんは、すぐに伊勢屋いせやへやってました。
ひゃくりょうってたね。
 
石垣いしがきえるおかねも、わたしすね。
 だからあの
いしを、はやください」
「それが・・・」
 
こまった主人しゅじんは、仕方しかたなしにれたいしんだ金魚きんぎょせて、すべてのことはなしました。
 するとアチャさんは、ポロポロと
なみだをこぼしながらいました。
「あの
いしは、さかなせきです。
 
丁寧ていねいみがくと、なか金魚きんぎょおよいでいるのがえます。
 わたしの
くにではこれをると、とても長生ながいきできるとわれています。
 でも
金魚きんぎょんでしまっては、一両いちりょう価値かちもありません」
なんと! それは、もうけそこなった」
 
はなしいた主人しゅじんも、くやしなみだをポロポロとこぼしました。

 

おしまい

 
 
 
 
 
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