第15

章3-第15

 

聴:

 

 

オオカミばあさん

 

むかしむかし、丹波(たんば→京都府)の山間の村に、スギというおばあさんが住んでいました。

 ある年、おスギおばあさんに、待望の孫が生まれたのです。
「ああ、うちにも孫がでけた。ええ男の子や。ほんに、ええ男の子や」
 ですが、そう言って喜んでいたのもつかの間で、その年の秋、息子夫婦と可愛い孫が、流行病で死んでしまったのです。
 一人生き残ったおばあさんは、生きる気力を無くしてしまい、
「たった一人、生きていても仕方ねえ、はよう、わしも死なしてくれえ」
と、ただ泣いて暮らしていました。

 間もなく冬が来て山に雪が降り始めた頃、おそろしい
オオカミが里の方へおりて来ました。
 そして里の子どもがオオカミに食い殺されたので、村人たちは大騒ぎです。
 おスギおばあさんが人前に姿を見せなくなったのは、その頃からでした。
と、言っても、決していなくなったわけではなく、夜になると家には明かりがつきましたし、かまどの煙もあがります。
 その頃、村には恐ろしいうわさが広がりました。
「なあ、知っとるか? あのばあさん、オオカミを飼っとるんや」
「ああ、聞いた聞いた。何でも朝晩、オオカミに飯を食べさせているそうだ」
 うわさはうそではないらしく、夜ごとに、
「ウォーン! ウォーン!」
と、いう、オオカミの鳴き声がすぐ近くで聞こえ、月明かりの庭先を通っていく黒いけものを何人もの村人が見たのです。
 そこである晩、男たちが火なわ銃を持って、おスギおばあさんの家の近くへ行ってみました。
 ひっそりとした、おスギおばあさんの家には、
あんどんの明かりが灯っていました。
 その明かりで、しょうじに大きくおばあさんとオオカミの影が写ったのです。
「あわわわわ、オオカミ、オオカミだ!」
  鉄砲を持った男たちは、みな足がすくんでしまい、
「あんなのに飛びかかられては、このくらい夜のこと、いくら鉄砲があっても殺されてしまうぞ」
と、ぞろぞろ逃げて帰りました。

 それからしばらくしたある日、おスギおばあさんは珍しく外へ出かけると、お坊さんを連れて戻って来ました。
 お坊さんは土間(どま→台所)から飛び出して来たオオカミを見てビックリしましたが、そのオオカミに向かっておばあさんが言いました。
「わしなあ、お前が家の裏まできた日には、『はよう、わしを食べてくれ、息子や孫のところへ行かしてくれ』そう思うて戸を開けたんや。
 そやけどお前は、このわしを食べなんだ。
 それどころか、わしが炊いたごはんをうまそうに食べて、今までいてくれた。
 おかげで、わしは今日まで命をながらえる事ができた。
 お前には礼をいわんならん。
 だども、いつまでもというわけにはいかん。
 ありがたいお経を聞いて、山の仲間の所へ帰ってくれ。
 ・・・では、お坊さま、頼んます」
「あっ、・・・えっ、おほん。それならオオカミや、よう聞くがええ」
 お坊さんは、あがりがまち(→家のあがり口)に立って、お経を唱え出しました。
 オオカミはキバをむいて土間を歩き回っていましたが、次第に落ち着いてお坊さんの前に座り込みました。
 オオカミは、そばにいたおばあさんをチラリと見ると、眠った様に目をつむります。
 それを見たおばあさんは、ゆっくりと部屋を出て行きました。
 しばらくの間、お坊さんのお経が続いていましたが、突然、
 ズドーーン!
 耳をつんざく音が、後ろの山の方までこだましたのです。
 しょうじのかげには、鉄砲を構えたおばあさんが立っていました。
 お経を聞いていたオオカミは、血に染まって死んでいました。
 おばあさんの目から、涙があふれて落ちました。
「なんぼわけがあるいうても、お前は村の子どもや旅の人を襲うた。
 つらいけど、わしはこうするしかなかったんや。
 ごめんな。
 ほんまに、ごめんな」
 そしてお坊さんの手を借りてオオカミのなきがらを山へ運ぶと、手厚くほうむりました。

 それからは、村では誰一人オオカミに襲われる者はなかったそうですが、おスギおばあさんはその日から姿を消して、二度と村には戻って来なかったという事です。


 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

オオカミばあさん

 

むかしむかし、丹波たんば(たんば→京都きょうと)の山間さんかんむらに、スギというおばあさんがんでいました。
 ある
とし、おスギおばあさんに、待望たいぼうまごまれたのです。
「ああ、うちにも
まごがでけた。ええおとこや。ほんに、ええおとこや」
 ですが、そう
ってよろこんでいたのもつかので、そのとしあき息子むすこ夫婦ふうふ可愛かわいまごが、流行りゅうこうびょうんでしまったのです。
 
いちにんのこったおばあさんは、きる気力きりょくくしてしまい、
「たった
いちにんきていても仕方しかたねえ、はよう、わしもなしてくれえ」
と、ただ
いてらしていました。

 
もなくふゆやまゆきはじめたころ、おそろしいオオカミさとほうへおりてました。
 そして
さとどもがオオカミにころされたので、村人むらびとたちは大騒おおさわぎです。
 おスギおばあさんが
人前ひとまえ姿すがたせなくなったのは、そのころからでした。
と、
っても、けっしていなくなったわけではなく、よるになるといえにはかりがつきましたし、かまどのけむりもあがります。
 その
ころむらにはおそろしいうわさがひろがりました。
「なあ、
っとるか? あのばあさん、オオカミをっとるんや」
「ああ、
いたいた。なにでも朝晩あさばん、オオカミにめしべさせているそうだ」
 うわさはうそではないらしく、
ごとに、
「ウォーン! ウォーン!」
と、いう、オオカミの
ごえがすぐちかくでこえ、月明つきあかりの庭先にわさきとおっていくくろいけものをなんにんもの村人むらびとたのです。
 そこである
ばんおとこたちがなわじゅうって、おスギおばあさんのいえちかくへってみました。
 ひっそりとした、おスギおばあさんの
いえには、あんどんかりがともっていました。
 その
かりで、しょうじにおおきくおばあさんとオオカミのかげうつったのです。
「あわわわわ、オオカミ、オオカミだ!」
  
鉄砲てっぽうったおとこたちは、みなあしがすくんでしまい、
「あんなのに
びかかられては、このくらいよるのこと、いくら鉄砲てっぽうがあってもころされてしまうぞ」
と、ぞろぞろ
げてがえりました。

 それからしばらくしたある
、おスギおばあさんはめずらしくそとかけると、おぼうさんをれてもどってました。
 お
ぼうさんは土間どま(どま→台所だいどころ)からしてたオオカミをてビックリしましたが、そのオオカミにかっておばあさんがいました。
「わしなあ、お
まえいえうらまできたには、『はよう、わしをべてくれ、息子むすこまごのところへかしてくれ』そうおもうてけたんや。
 そやけどお
まえは、このわしをべなんだ。
 それどころか、わしが
いたごはんをうまそうにべて、いままでいてくれた。
 おかげで、わしは
今日きょうまでいのちをながらえることができた。
 お
まえにはれいをいわんならん。
 だども、いつまでもというわけにはいかん。
 ありがたいお
けいいて、やま仲間なかまところかえってくれ。
 ・・・では、お
ぼうさま、たのんます」
「あっ、・・・えっ、おほん。それならオオカミや、よう
くがええ」
 お
ぼうさんは、あがりがまち(→いえのあがりぐち)にって、おけいとなしました。
 オオカミはキバをむいて
土間どまあるまわっていましたが、次第しだいいておぼうさんのまえすわみました。
 オオカミは、そばにいたおばあさんをチラリと
ると、ねむったようをつむります。
 それを
たおばあさんは、ゆっくりと部屋へやきました。
 しばらくの
、おぼうさんのおけいつづいていましたが、突然とつぜん
 ズドーーン!
 
みみをつんざくおとが、うしろのやまほうまでこだましたのです。
 しょうじのかげには、
鉄砲てっぽうかまえたおばあさんがっていました。
 お
けいいていたオオカミは、まってんでいました。
 おばあさんの
から、なみだがあふれてちました。
「なんぼわけがあるいうても、お
まえむらどもやたびひとおそうた。
 つらいけど、わしはこうするしかなかったんや。
 ごめんな。
 ほんまに、ごめんな」
 そしてお
ぼうさんのりてオオカミのなきがらをやまはこぶと、手厚てあつくほうむりました。

 それからは、
むらではだれいちにんオオカミにおそわれるものはなかったそうですが、おスギおばあさんはそのから姿すがたして、二度にどむらにはもどってなかったということです。

 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
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