第12

章3-第12

 

聴:

 

 

子ザルのまつ

 

むかし、松代町(まつしろちょう)と言うところに、徳嵩源五郎(とくたけげんごろう)と言う腕の良い彫り物師が住んでいました。

 ある日、源五郎は山でサルの親子を見つけました。
 母ザルは猟師に鉄砲で撃たれたのか、背中から血を流して死んでいましたが、そのふところには生まれたばかりの子ザルが、母ザルのおっぱいを探して手足を動かしています。
「なんと、可哀想に」
 哀れに思った源五郎は、さっそく子ザルを抱くと家に連れて帰りました。
 そして源五郎夫婦は子ザルに『まつ』と言う名前を付けて、我が子同様に可愛がったのです。

 まつはとてもかしこいサルで、源五郎が踊りや芸を教えると、それは上手にやってみせるのです。
 そしてまつの話は評判になって、やがては松代(まつしろ)の殿さまの耳にまで届きました。
 殿さまはさっそく、源五郎とまつを呼び寄せました。
 まつは源五郎の合図に合わせて、逆立ちや宙返りの芸を見せました。、
「これは見事。見事だ」 
 殿さまは、大喜びです。
 そしてまつの芸を見終わった殿さまは、源五郎に言いました。
「源五郎よ。金なら、いくらでも出そう。だからサルをゆずってくれ」
「えっ、まつを?」
 これには、源五郎も困ってしまいました。
 たとえ殿さまの命令でも、まつは我が子同様に可愛がっているサルです。
(よわったな)
 何と返事をしたら良いかと迷っていると、源五郎のそばに座っていたまつが、とつぜん殿さまの前に進み出て、ていねいに両手をつくと、
『そればかりは、ごかんべんを』
と、言う様に、何度もおじぎをしたのです。
 これを見た殿さまは、とても心を打たれて、
「よいよい、今の言葉は取り消しじゃ。だがその代わり、時々城へ遊びに来るのじゃぞ」
と、やさしく言いました。
 こうして源五郎夫婦とまつは、それからも仲良く幸せに暮らしました。

 今でもまつのお墓は、松代町大信寺にある徳嵩家の墓地に残っているそうです。


 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

子ザルのまつ

 

むかし、松代まつだいまち(まつしろちょう)とうところに、とくかさ源五郎げんごろう(とくたけげんごろう)とうでものんでいました。
 ある
源五郎げんごろうやまでサルの親子おやこつけました。
 
ははザルは猟師りょうし鉄砲てっぽうたれたのか、背中せなかからながしてんでいましたが、そのふところにはまれたばかりのザルが、ははザルのおっぱいをさがして手足てあしうごかしています。
「なんと、
可哀想かわいそうに」
 
あわれにおもった源五郎げんごろうは、さっそくザルをいだくといえれてがえりました。
 そして
源五郎げんごろう夫婦ふうふザルに『まつ』と名前なまえけて、同様どうよう可愛かわいがったのです。

 まつはとてもかしこいサルで、
源五郎げんごろうおどりやげいおしえると、それは上手じょうずにやってみせるのです。
 そしてまつの
はなし評判ひょうばんになって、やがては松代まつだい(まつしろ)の殿とのさまのみみにまでとどきました。
 
殿とのさまはさっそく、源五郎げんごろうとまつをせました。
 まつは
源五郎げんごろう合図あいずわせて、逆立さかだちや宙返ちゅうがえりのげいせました。、
「これは
見事みごと見事みごとだ」 
 
殿とのさまは、だいよろこびです。
 そしてまつの
げいわった殿とのさまは、源五郎げんごろういました。
源五郎げんごろうよ。かねなら、いくらでもそう。だからサルをゆずってくれ」
「えっ、まつを?」
 これには、
源五郎げんごろうこまってしまいました。
 たとえ
殿とのさまの命令めいれいでも、まつは同様どうよう可愛かわいがっているサルです。
(よわったな)
 
なに返事へんじをしたらいかとまよっていると、源五郎げんごろうのそばにすわっていたまつが、とつぜん殿とのさまのまえすすて、ていねいに両手りょうてをつくと、
『そればかりは、ごかんべんを』
と、
ように、なんもおじぎをしたのです。
 これを
殿とのさまは、とてもこころたれて、
「よいよい、
いま言葉ことばしじゃ。だがそのわり、時々ときどきしろあそびにるのじゃぞ」
と、やさしく
いました。
 こうして
源五郎げんごろう夫婦ふうふとまつは、それからも仲良なかよしあわせにらしました。

 
いまでもまつのおはかは、松代まつだいまち大信たいしんてらにあるとくかさ墓地ぼちのこっているそうです。

 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
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