第11

章3-第11

 

聴:

 

 

生まれ変わりのしるし

 

むかしむかし、那賀郡田中村(→今の和歌山市)というところに、赤尾長者と呼ばれる長者がいました。

 長者には子どもがいませんでしたが、ようやく玉の様な男の子が生まれたのです。
 長者は子どもに万年も生きてくれる様にと願いを込めて亀千代(かめちよ)と言う名前をつけると、子どもを毎日はかりにかけて体重が少しずつ増えていくのを楽しみにしていました。

 そんなある日の事、長者が亀千代の体重を測ろうとしたとたん、はかりのひもがぷっつりと切れて、亀干代は地面に頭をぶつけて死んでしまったのです。
 最愛の子どもを亡くした長者夫婦は、一晩中泣き続けました。
 そしてふと、死んだ子どもの手のひらに名前を書いておけば、生まれ変わったところがわかるという言い伝えを思い出したのです。
 長者はさっそく筆をとると、亀干代の左の小さな手のひらに、
《赤尾長三郎の一子、亀干代》
と、書きつけました。
「いいか、亀干代。いつまでも待っているから、必ず生まれ変わって来いよ。もう一度お前を、抱かせてくれ」
 長者は何度も言い聞かせてから、小さなお棺のふたを閉じました。

 それから数年後のある日、小さな赤ちゃんをおぶった若い夫婦が、赤尾長者を訪ねて来ました。
 長者夫婦がその赤ちゃんを見てみると、左の手のひらに《赤尾長三郎の一子、亀干代》と書きしるした文字が、はっきりと現われていたのです。
「こっ、これは・・・」
 驚く長者夫婦に、若夫婦が言いました。
「この文字は、この子が生まれた時からありました。
 何度洗っても文字が消えないので、お寺の和尚さんに相談したところ、
『この子は、赤尾長者の子の生まれ変わり。この文字はどんなに洗っても決して消えないが、以前に生まれた家の井戸の水で洗えば消えるだろう』
と、言われました。
 そこで、お水をいただきにまいりました」
 長者夫婦は赤ちゃんを抱きしめると、涙を流して頼みました。
「一生のお願いや!
 この子を、わしらにくださらんか。
 お礼なら、なんぼでもしますから。
 何なら、この屋敷を差し上げても良い。
 どうか、亀千代の生まれ変わりであるこの子をわしらに 」
 若夫婦は長者夫婦の涙にもらい泣きしながらも、きっぱりと断りました。
「お気持ちはわかります。ですがこの子は、わたしたち夫婦の宝です」
「・・・わかりました。もう一度我が子が抱けただけでも、本望です」
 長者夫婦はあきらめると、若夫婦に井戸の水を差し出しました。
 若夫婦がその水で赤ちゃんの手のひらを洗うと、今までどんな事をしても消えなかった文字が、すーっと消えたということです。


 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

生まれ変わりのしるし

 

むかしむかし、那賀なか郡ぐん田中たなか村むら(→今いまの和歌山わかやま市し)というところに、赤尾あかお長者ちょうじゃと呼よばれる長者ちょうじゃがいました。
 
長者ちょうじゃには子こどもがいませんでしたが、ようやく玉たまの様ような男おとこの子こが生うまれたのです。
 
長者ちょうじゃは子こどもに万まん年ねんも生いきてくれる様ようにと願ねがいを込こめて亀かめ千せん代だい(かめちよ)と言いう名前なまえをつけると、子こどもを毎日まいにちはかりにかけて体重たいじゅうが少すこしずつ増ふえていくのを楽たのしみにしていました。

 そんなある
日ひの事こと、長者ちょうじゃが亀かめ千せん代だいの体重たいじゅうを測はかろうとしたとたん、はかりのひもがぷっつりと切きれて、亀かめ干ひ代だいは地面じめんに頭あたまをぶつけて死しんでしまったのです。
 
最愛さいあいの子こどもを亡なくした長者ちょうじゃ夫婦ふうふは、一いち晩ばん中ちゅう泣なき続つづけました。
 そしてふと、
死しんだ子こどもの手てのひらに名前なまえを書かいておけば、生うまれ変かわったところがわかるというい伝いつたえを思おもい出だしたのです。
 
長者ちょうじゃはさっそく筆ふでをとると、亀かめ干ひ代だいの左ひだりの小ちいさな手てのひらに、
《
赤尾あかお長三郎ちょうさぶろうの一いち子し、亀かめ干ひ代だい》
と、
書かきつけました。
「いいか、
亀かめ干ひ代だい。いつまでも待まっているから、必かならず生うまれ変かわって来こいよ。もう一度いちどお前まえを、抱いだかせてくれ」
 
長者ちょうじゃは何なん度どもい聞いきかせてから、小ちいさなお棺かんのふたを閉とじました。

 それから
数すう年ねん後ごのある日ひ、小ちいさな赤あかちゃんをおぶった若わかい夫婦ふうふが、赤尾あかお長者ちょうじゃを訪たずねて来きました。
 
長者ちょうじゃ夫婦ふうふがその赤あかちゃんを見みてみると、左ひだりの手てのひらに《赤尾あかお長三郎ちょうさぶろうの一いち子し、亀かめ干ひ代だい》と書かきしるした文字もじが、はっきりと現あらわれていたのです。
「こっ、これは・・・」
 
驚おどろく長者ちょうじゃ夫婦ふうふに、若わか夫婦ふうふが言いいました。
「この
文字もじは、この子こが生うまれた時ときからありました。
 
何なん度ど洗あらっても文字もじが消きえないので、お寺てらの和尚おしょうさんに相談そうだんしたところ、
『この
子こは、赤尾あかお長者ちょうじゃの子この生うまれ変かわり。この文字もじはどんなに洗あらっても決けっして消きえないが、以前いぜんに生うまれた家いえの井戸いどの水みずで洗あらえば消きえるだろう』
と、
言いわれました。
 そこで、お
水みずをいただきにまいりました」
 
長者ちょうじゃ夫婦ふうふは赤あかちゃんを抱だきしめると、涙なみだを流ながして頼たのみました。
「
一生いっしょうのお願ねがいや!
 この
子こを、わしらにくださらんか。
 お
礼れいなら、なんぼでもしますから。
 
何なになら、この屋敷やしきを差さし上あげても良よい。
 どうか、
亀かめ千せん代だいの生うまれ変かわりであるこの子こをわしらに 」
 
若わか夫婦ふうふは長者ちょうじゃ夫婦ふうふの涙なみだにもらい泣なきしながらも、きっぱりと断ことわりました。
「お
気持きもちはわかります。ですがこの子こは、わたしたち夫婦ふうふの宝たからです」
「・・・わかりました。もう
一度いちど我わが子こが抱いだけただけでも、本望ほんもうです」
 
長者ちょうじゃ夫婦ふうふはあきらめると、若わか夫婦ふうふに井戸いどの水みずを差さし出だしました。
 
若わか夫婦ふうふがその水みずで赤あかちゃんの手てのひらを洗あらうと、今いままでどんな事ことをしても消きえなかった文字もじが、すーっと消きえたということです。

 

おしまい

 
 

 
 
 
 
 
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