第8

章2-第8

 

聴:

 

 

トラのあぶら

 

むかしむかし、土佐の国(とさのくに→高知県)に是市(これいち)という、とんちの上手な若者が住んでいました。
 ある日の事、隣村へ出かけた是市は、突然のにわか雨に降られて、すっかりずぶ濡れになってしまいました。
 服がビショビショで、このままでは風邪をひいてしまいます。
「早く着物を乾かさないと、寒くてかなわんわ」
 しばらく歩くと一軒の家があり、中をのぞくと、おじいさんがいろりに火をたいていました。
「これはちょうどいい。ちょいと、火に当たらせてもらえないか」
「ああ、いいですよ」
 おじいさんが快く是市を家に入れてくれたので、是市はさっそくいろりの火に当たらせてもらったのですが、火が弱いので着物はなかなか乾きません。
(もう少し火を強くしたいが、服を乾かすのに火を強くしてくれと言うのは、ちょいとずうずうしいし)
 そこで是市は、おじいさんにこう言いました。、
「なあ、じいさん。おらの村では固い竹を食べるが、このあたりでも食べるのかね?」
「固い竹? タケノコではなく、固い竹が食べられるじゃと!? そりゃあ、初耳(はつみみ→はじめて聞いたこと)じゃ。ぜひとも食べ方を教えてくれ」
 すると是市は、
(しめしめ、引っかかったぞ)
と、ニヤリと笑うと、おじいさんに言いました。
「いいか。まずは竹を輪切りにしてナベに入れて、どんどん火をたいて竹をぐらぐらと煮込むんじゃ」
「よし。さっそく試してみよう」
 おじいさんは大きな竹を切って来ると、輪切りにしていろりのナベをかけました。
「駄目駄目、もっと火をたかないと。よし、おらも手伝ってやる」
 是市はいろりにまきをドンドン放り込んで、火を大きくしました。
 そのおかげで着物は、たちまち乾いてしまいました。
 外を見ると、雨はすっかり止んでいます。
「まだか。まだ食えんのか?」
 おじいさんは早く竹が食べたくて、うずうずしています。
「ああ、もう少しだ。ここでトラのあぶらを入れれば、すぐに食えるぞ。さあ、トラのあぶらを出してくれ」
 是市が言うと、おじいさんは不思議そうな顔で言いました。
「トラのあぶら? そんな物はないぞ」
「そうなのか? おらの村じゃあ、どこの家にも置いてあるんだが。困ったなあ。トラのあぶらがないと、竹は食えんからのう。残念、残念」
 是市はそう言うと、さっさと帰ってしまいました。


 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

トラのあぶら

むかしむかし、土佐とさの国くに(とさのくに→高知こうち県けん)に是ぜ市し(これいち)という、とんちの上手じょうずな若者わかものが住すんでいました。
 ある
日ひの事こと、隣村りんそんへ出でかけた是ぜ市しは、突然とつぜんのにわか雨あめに降ふられて、すっかりずぶ濡ぬれになってしまいました。
 
服ふくがビショビショで、このままでは風邪かぜをひいてしまいます。
「
早はやく着物きものを乾かわかさないと、寒さむくてかなわんわ」
 しばらく
歩あるくと一いち軒けんの家いえがあり、中なかをのぞくと、おじいさんがいろりに火ひをたいていました。
「これはちょうどいい。ちょいと、
火ひに当あたらせてもらえないか」
「ああ、いいですよ」
 おじいさんが
快こころよく是ぜ市しを家いえに入いれてくれたので、是ぜ市しはさっそくいろりの火ひに当あたらせてもらったのですが、火ひが弱よわいので着物きものはなかなか乾かわきません。
(もう
少すこし火ひを強つよくしたいが、服ふくを乾かわかすのに火ひを強つよくしてくれと言いうのは、ちょいとずうずうしいし)
 そこで
是ぜ市しは、おじいさんにこう言いいました。、
「なあ、じいさん。おらの
村むらでは固かたい竹たけを食たべるが、このあたりでも食たべるのかね?」
「
固かたい竹たけ? タケノコではなく、固かたい竹たけが食たべられるじゃと!? そりゃあ、初耳はつみみ(はつみみ→はじめて聞きいたこと)じゃ。ぜひとも食たべ方かたを教おしえてくれ」
 すると
是ぜ市しは、
(しめしめ、
引ひっかかったぞ)
と、ニヤリと
笑わらうと、おじいさんに言いいました。
「いいか。まずは
竹たけを輪切わぎりにしてナベに入いれて、どんどん火ひをたいて竹たけをぐらぐらと煮込にこむんじゃ」
「よし。さっそく
試ためしてみよう」
 おじいさんは
大おおきな竹たけを切きって来くると、輪切わぎりにしていろりのナベをかけました。
「
駄目だめ駄目だめ、もっと火ひをたかないと。よし、おらも手伝てつだってやる」
 
是ぜ市しはいろりにまきをドンドン放ほうり込こんで、火ひを大おおきくしました。
 そのおかげで
着物きものは、たちまち乾かわいてしまいました。
 
外そとを見みると、雨あめはすっかり止やんでいます。
「まだか。まだ
食しょくえんのか?」
 おじいさんは
早はやく竹たけが食たべたくて、うずうずしています。
「ああ、もう
少すこしだ。ここでトラのあぶらを入いれれば、すぐに食くえるぞ。さあ、トラのあぶらを出だしてくれ」
 
是ぜ市しが言いうと、おじいさんは不思議ふしぎそうな顔かおで言いいました。
「トラのあぶら? そんな
物ものはないぞ」
「そうなのか? おらの
村むらじゃあ、どこの家いえにも置おいてあるんだが。困こまったなあ。トラのあぶらがないと、竹たけは食しょくえんからのう。残念ざんねん、残念ざんねん」
 
是ぜ市しはそう言いうと、さっさと帰かえってしまいました。

おしまい

 
 
 
 
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