第14

章2-第14

 

聴:

 

 

人形のお嫁さん

 

むかしむかし、あるところに、一人暮らしの若者がいました。
 若者は貧乏なので、お嫁さんをもらう事が出来ません。

 ある日の事、若者は長者の屋敷へ仕事に出かけました。
 暖かくなって来たので、若者が庭木の雪囲いをはずしていると、そばに小さくてきれいな娘さんが立っていました。
「ああ、これは始めまして」
 若者が娘さんにあいさつをしましたが、娘さんはじっと立ったまま口も聞かず、動こうともしません。
「おや?」
 不思議に思った若者が娘さんに近づくと、何と娘さんは人形だったのです。
 そこへ長者と奥さんが出てきたので、若者は、
「これは見事な出来ですね。てっきり、本物の娘さんかと思いましたよ」
と、言いました。
 すると長者は悲しそうにため息をつき、人形の事を話してくれました。

 実は長者には、この人形とそっくりな娘さんがいたのです。
 娘は年頃になってお嫁入りをする事になりましたが、長者も奥さんも娘さんをとても可愛がっているので、お嫁になんかやりたくありません。
 でも、そう言うわけにもいかないので、有名な人形細工師に娘さんにそっくりの人形を作らせて、娘さんの代わりにそばへ置く事にしたのです。
 ところが娘さんは、お嫁に行ってすぐに病気で亡くなってしまいました。
 長者と奥さんは人形を見ては娘さんの事を思い出して、毎日の様に泣き暮らしているのだそうです。

「そうですか」
 この話しを聞いた若者は、この人形の事が好きになってしまいました。
 でも、ゆずってもらうお金もないし、たとえお金があったとしても、長者が大切な人形をゆずってくれるはずはありません。
 そこで若者は頭を下げて、
「お願いです。たったの一日でいいから、この人形を貸してください!」
と、お願いしたのです。
「と、とんでもない。これはわたしたちの宝物だ」
 長者は断りましたが、それでも若者は必死でお願いしました。
「おらは貧乏で、嫁さんをもらう事も出来ません。そこで一度でいいから、この人形のそばでご飯を食べてみたいのです」
「そうは言っても」
「お願いします!」
「しかし」
「お願いします!」
 若者があんまり熱心に頼むので、長者はとうとう根負けして、しばらくの間、貸してやる事にしました。
「ありがとうございます!」
 若者は大喜びで、さっそく人形を家に連れて帰りました。
 若者は家の中に人形をかざると、まるで自分のお嫁さんの様に話しかけました。
 仕事に出かける時は、ほこりがつかないように頭に白い布きれをかぶせて、
「それじゃ、仕事に行ってくるからね」
と、言いました。
 そして仕事から戻って来ると、今度は白い布きれを取り、
「ただいま。今、戻って来たよ」
と、言いました。
 例え口の聞かない人形でも、若者は美しいお嫁さんをもらったみたいな気持ちになり、毎日が夢の様でした。

 そんなある日の事、若者が仕事から戻って来ると、家の中がきちんと片付いていて、ご飯まで用意してありました。
「おや? 誰が、こんな事をしてくれたんだろう? まさか、人形がしてくれるわけがないし」
 若者は不思議に思いながらも、用意されたご飯を食べました。

 次の日、若者が仕事から戻って来ると、やっぱり家の中が片付いていて、ご飯の用意がしてあります。
「これは、おかしいぞ?」
 いよいよ不思議に思った若者は、その次の日、仕事に行くふりをしてこっそりと天井裏にのぼって家の中の様子を見張っていました。
 すると、どうでしょう。
 家の中にかざってある人形がむくむくと動き出したかと思うと、人形は白い布をねじってたすきがけにして、家の掃除を始めたではありませんか。
「・・・・・・」 
 若者はびっくりして、声も出ません。
 そのうちに人形はかまどに火をつけて、ご飯を炊き始めました。
 もくもくとのぼってくる煙に若者は思わずせき込んでしまい、そのひょうしに若者は天井裏から足を滑らせて、人形の上に落ちてしまったのです。
「きゃあー」
 びっくりした人形は小さな悲鳴を上げると、ぶつかった勢いで火のついたかまどの中に飛び込んでしまいました。
「たっ、大変だー!」
 若者はあわてて人形を助け出そうとしましたが、人形はあっという間に火だるまになって燃え上がりました。
 そして若者の目の前で、人形は燃え尽きて灰になってしまいました。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

人形のお嫁さん

むかしむかし、あるところに、一人暮ひとりぐらしの若者わかものがいました。
 
若者わかもの貧乏びんぼうなので、およめさんをもらうこと出来できません。

 ある
こと若者わかもの長者ちょうじゃ屋敷やしき仕事しごとかけました。
 
あたたかくなってたので、若者わかもの庭木にわき雪囲ゆきがこいをはずしていると、そばにちいさくてきれいなむすめさんがっていました。
「ああ、これは
はじめまして」
 
若者わかものむすめさんにあいさつをしましたが、むすめさんはじっとったままくちかず、どうこうともしません。
「おや?」
 
不思議ふしぎおもった若者わかものむすめさんにちかづくと、なんむすめさんは人形にんぎょうだったのです。
 そこへ
長者ちょうじゃおくさんがてきたので、若者わかものは、
「これは
見事みごと出来できですね。てっきり、本物ほんものむすめさんかとおもいましたよ」
と、
いました。
 すると
長者ちょうじゃかなしそうにためいきをつき、人形にんぎょうことはなしてくれました。

 
じつ長者ちょうじゃには、この人形にんぎょうとそっくりなむすめさんがいたのです。
 
むすめ年頃としごろになってお嫁入よめいりをすることになりましたが、長者ちょうじゃおくさんもむすめさんをとても可愛かわいがっているので、およめになんかやりたくありません。
 でも、そう
うわけにもいかないので、有名ゆうめい人形にんぎょう細工ざいくむすめさんにそっくりの人形にんぎょうつくらせて、むすめさんのわりにそばへことにしたのです。
 ところが
むすめさんは、およめってすぐに病気びょうきくなってしまいました。
 
長者ちょうじゃおくさんは人形にんぎょうてはむすめさんのことおもして、毎日まいにちようらしているのだそうです。

「そうですか」
 この
はなしをいた若者わかものは、この人形にんぎょうこときになってしまいました。
 でも、ゆずってもらうお
かねもないし、たとえおかねがあったとしても、長者ちょうじゃ大切たいせつ人形にんぎょうをゆずってくれるはずはありません。
 そこで
若者わかものあたまげて、
「お
ねがいです。たったのいちにちでいいから、この人形にんぎょうしてください!」
と、お
ねがいしたのです。
「と、とんでもない。これはわたしたちの
宝物ほうもつだ」
 
長者ちょうじゃことわりましたが、それでも若者わかもの必死ひっしでおねがいしました。
「おらは
貧乏びんぼうで、よめさんをもらうこと出来できません。そこでいちでいいから、この人形にんぎょうのそばでごはんべてみたいのです」
「そうは
っても」
「お
ねがいします!」
「しかし」
「お
ねがいします!」
 
若者わかものがあんまり熱心ねっしんたのむので、長者ちょうじゃはとうとう根負こんまけして、しばらくのしてやることにしました。
「ありがとうございます!」
 
若者わかものだいよろこびで、さっそく人形にんぎょういえれてがえりました。
 
若者わかものいえなか人形にんぎょうをかざると、まるで自分じぶんのおよめさんのようはなしかけました。
 
仕事しごとかけるときは、ほこりがつかないようにあたましろぬのきれをかぶせて、
「それじゃ、
仕事しごとってくるからね」
と、
いました。
 そして
仕事しごとからもどってると、今度こんどしろぬのきれをり、
「ただいま。
いまもどってたよ」
と、
いました。
 
たとこうかない人形にんぎょうでも、若者わかものうつくしいおよめさんをもらったみたいな気持きもちになり、毎日まいにちゆめようでした。

 そんなある
こと若者わかもの仕事しごとからもどってると、いえなかがきちんと片付かたづいていて、ごはんまで用意よういしてありました。
「おや? 
だれが、こんなごとをしてくれたんだろう? まさか、人形にんぎょうがしてくれるわけがないし」
 
若者わかもの不思議ふしぎおもいながらも、用意よういされたごはんべました。

 
つぎ若者わかもの仕事しごとからもどってると、やっぱりいえなか片付かたづいていて、ごはん用意よういがしてあります。
「これは、おかしいぞ?」
 いよいよ
不思議ふしぎおもった若者わかものは、そのつぎ仕事しごとくふりをしてこっそりと天井てんじょううらにのぼっていえなか様子ようす見張みはっていました。
 すると、どうでしょう。
 
いえなかにかざってある人形にんぎょうがむくむくとうごしたかとおもうと、人形にんぎょうしろぬのをねじってたすきがけにして、いえ掃除そうじはじめたではありませんか。
「・・・・・・」 
 
若者わかものはびっくりして、こえません。
 そのうちに
人形にんぎょうはかまどにをつけて、ごはんはじめました。
 もくもくとのぼってくる
けむり若者わかものおもわずせきんでしまい、そのひょうしに若者わかもの天井てんじょううらからあしすべらせて、人形にんぎょううえちてしまったのです。
「きゃあー」
 びっくりした
人形にんぎょうちいさな悲鳴ひめいげると、ぶつかったいきおいでのついたかまどのなかんでしまいました。
「たっ、
大変たいへんだー!」
 
若者わかものはあわてて人形にんぎょうたすそうとしましたが、人形にんぎょうはあっというだるまになってがりました。
 そして
若者わかものまえで、人形にんぎょうきてはいになってしまいました。
 

おしまい

 
 
 
 
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