第13

章2-第13

 

聴:

 

 

牛になるまんじゅう

 

むかしむかし、あるところに、一軒のそまつな宿屋がありました。
 おばあさんがたった一人いるだけでしたが、とても親切そうなおばあさんだったので、時々泊まって行く人がいました。
 ところが不思議な事に、宿屋に泊まった人はみんな姿を消してしまうのです。
 そしてその宿屋では、お百姓仕事もしないのに牛を何頭も飼っていました。

 ある時、一人のお坊さんがこの宿屋に泊まりました。
「よく来てくれました。さあ、ゆっくり休んで行ってください」
 おばあさんは、一生懸命お坊さんをもてなしました。
(ほほう。見かけは悪いが、なかなか親切な宿屋だ)
 お坊さんはとても喜んで寝床につきましたが、その真夜中、ごそごそと音がするので目が覚めました。
(はて、何の音だろう?)
 お坊さんは起きあがって、音のする方の部屋をこっそりのぞいてみました。
 すると、どうでしょう。
 おばあさんがいろりの回りに、せっせとごまの種をまいているのです。
(おや? あんなところにごまの種をまいて、いったいどうするつもりだろう?)
 不思議に思いながら見ていると、床の上にみるみるごまの芽が伸びてきて大きくなりました。
 おばあさんはそれをつみ取り、何やらあやしげな粉と混ぜ合わせて、おいしそうなまんじゅうを作りました。
(これは面妖(めんよう)な。しかし、あのまんじゅうをどうするつもりだろう?)
 お坊さんは怖くなって逃げ出そうと思いましたが、こんな真夜中では、どこへ行ってよいかわかりません。
 仕方なく部屋に戻って、夜が明けるまでがまんしていました。
 すると朝早く、おばあさんがお皿にまんじゅうを乗せて持って来ました。
「お客さん、朝ごはんの代わりに、まんじゅうを食べてください」
(ややっ。これは、あのまんじゅうに間違いない)
 そう思ったお坊さんは、
「いやいや。ゆうべごちそうをいただいたから、まだお腹がいっぱいです」
と、言って、断りました。
 するとおばあさんは、がっかりして部屋を出て行きました。
 その時、近くの部屋で、
「モー」
と、言う牛の鳴き声がしました。
 お坊さんがびっくりして駆け付けてみると、部屋からおばあさんに引かれた牛が出て来ました。
「これはいったい、どうしたのです?」
 お坊さんが尋ねると、
「なに、わたしの飼っている牛が、部屋に上がり込んでしまったんですよ」
と、おばあさんはにこにこしながら、牛を庭の方へ連れて行きました。
 その時、牛の出て行った部屋をのぞいてみると、お客さんの荷物が置いたままです。
(わかったぞ。あのまんじゅうを食べると、牛になるんだ)
 お坊さんの思った通り、おばあさんは宿屋に泊まったお客を牛にして、牛買いに売っていたのです。
(なんて、恐ろしい事を)
 でもお坊さんは、何くわぬ顔で、
「すまんが、今夜も泊めてもらいます」
と、言って、宿屋を出て行きました。
 そしてお坊さんは町で本当のまんじゅうを買うと、その日の夕方、宿屋へ戻って来ました。
 すると、おばあさんは、
「お腹が空いたでしょう。すぐに夕ご飯を作りますから、それまでこのまんじゅうでも食べていてください」
と、言って、牛になるまんじゅうを出しました。
 するとお坊さんは、町で買ってきたまんじゅうをその横へ置き、
「いや、わたしもまんじゅうを買って来たところです。おばあさんのまんじゅうもおいしそうだが、こっちも食べてみてくださいよ」
と、言いながら、牛になるまんじゅうと素早くすり替えて、おばあさんに渡しました。
「それなら、先にあなたのまんじゅうをいただきましょうか」
 そう言っておばあさんは、お坊さんに渡されたまんじゅうを食べました。
 するとその途端、おばあさんの姿はみるみる牛になってしまったのです。
 こうしてお坊さんは、恐ろしい宿屋の主人を退治したのでした。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

牛になるまんじゅう

むかしむかし、あるところに、一いち軒けんのそまつな宿屋やどやがありました。
 おばあさんがたった
一いち人にんいるだけでしたが、とても親切しんせつそうなおばあさんだったので、時々ときどき泊とまって行いく人ひとがいました。
 ところが
不思議ふしぎな事ことに、宿屋やどやに泊とまった人ひとはみんな姿すがたを消けしてしまうのです。
 そしてその
宿屋やどやでは、お百姓ひゃくしょう仕事しごともしないのに牛うしを何頭なんとうも飼かっていました。

 ある
時とき、一いち人にんのお坊ぼうさんがこの宿屋やどやに泊とまりました。
「よく
来きてくれました。さあ、ゆっくり休やすんで行いってください」
 おばあさんは、
一生懸命いっしょうけんめいお坊ぼうさんをもてなしました。
(ほほう。
見みかけは悪わるいが、なかなか親切しんせつな宿屋やどやだ)
 お
坊ぼうさんはとても喜よろこんで寝床ねどこにつきましたが、その真夜中まよなか、ごそごそと音おとがするので目めが覚さめました。
(はて、
何なんの音おんだろう?)
 お
坊ぼうさんは起おきあがって、音おとのする方ほうの部屋へやをこっそりのぞいてみました。
 すると、どうでしょう。
 おばあさんがいろりの
回まわりに、せっせとごまの種たねをまいているのです。
(おや? あんなところにごまの
種たねをまいて、いったいどうするつもりだろう?)
 
不思議ふしぎに思おもいながら見みていると、床ゆかの上うえにみるみるごまの芽めが伸のびてきて大おおきくなりました。
 おばあさんはそれをつみ
取とり、何なにやらあやしげな粉こなと混まぜ合あわせて、おいしそうなまんじゅうを作つくりました。
(これは
面妖めんよう(めんよう)な。しかし、あのまんじゅうをどうするつもりだろう?)
 お
坊ぼうさんは怖こわくなって逃にげ出だそうと思おもいましたが、こんな真夜中まよなかでは、どこへ行いってよいかわかりません。
 
仕方しかたなく部屋へやに戻もどって、夜よるが明あけるまでがまんしていました。
 すると
朝あさ早はやく、おばあさんがお皿さらにまんじゅうを乗のせて持もって来きました。
「お
客きゃくさん、朝あさごはんの代かわりに、まんじゅうを食たべてください」
(ややっ。これは、あのまんじゅうに
間違まちがいない)
 そう
思おもったお坊ぼうさんは、
「いやいや。ゆうべごちそうをいただいたから、まだお
腹はらがいっぱいです」
と、
言いって、断ことわりました。
 するとおばあさんは、がっかりして
部屋へやを出でて行いきました。
 その
時とき、近ちかくの部屋へやで、
「モー」
と、
言いう牛うしの鳴なき声ごえがしました。
 お
坊ぼうさんがびっくりして駆かけ付つけてみると、部屋へやからおばあさんに引ひかれた牛うしが出でて来きました。
「これはいったい、どうしたのです?」
 お
坊ぼうさんが尋たずねると、
「なに、わたしの
飼かっている牛うしが、部屋へやに上あがり込こんでしまったんですよ」
と、おばあさんはにこにこしながら、
牛うしを庭にわの方ほうへ連つれて行いきました。
 その
時とき、牛うしの出でて行いった部屋へやをのぞいてみると、お客きゃくさんの荷物にもつが置おいたままです。
(わかったぞ。あのまんじゅうを
食たべると、牛うしになるんだ)
 お
坊ぼうさんの思おもった通とおり、おばあさんは宿屋やどやに泊とまったお客きゃくを牛うしにして、牛うし買かいに売うっていたのです。
(なんて、
恐おそろしい事ことを)
 でもお
坊ぼうさんは、何なにくわぬ顔かおで、
「すまんが、
今夜こんやも泊とめてもらいます」
と、
言いって、宿屋やどやを出でて行いきました。
 そしてお
坊ぼうさんは町まちで本当ほんとうのまんじゅうを買かうと、その日ひの夕方ゆうがた、宿屋やどやへ戻もどって来きました。
 すると、おばあさんは、
「お
腹なかが空あいたでしょう。すぐに夕ゆうご飯はんを作つくりますから、それまでこのまんじゅうでも食たべていてください」
と、
言いって、牛うしになるまんじゅうを出だしました。
 するとお
坊ぼうさんは、町まちで買かってきたまんじゅうをその横よこへ置おき、
「いや、わたしもまんじゅうを
買かって来きたところです。おばあさんのまんじゅうもおいしそうだが、こっちも食たべてみてくださいよ」
と、
言いいながら、牛うしになるまんじゅうと素早すばやくすり替かえて、おばあさんに渡わたしました。
「それなら、
先さきにあなたのまんじゅうをいただきましょうか」
 そう
言いっておばあさんは、お坊ぼうさんに渡わたされたまんじゅうを食たべました。
 するとその
途端とたん、おばあさんの姿すがたはみるみる牛うしになってしまったのです。
 こうしてお
坊ぼうさんは、恐おそろしい宿屋やどやの主人しゅじんを退治たいじしたのでした。

 

おしまい

 
 
 
 
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