第10

章2-第10

 

聴:

 

 

しじみの恩返し

 

むかしむかし、小川のそばの小さな家に、太郎という男の子がお母さんと二人で暮らしていました。
 まだ子供の太郎は、お母さんを助ける為に、それはよく働きます。
 山へたき木を取りに行ったり、近くの家に手伝いに行ったり。
 そうして食べ物をもらっては、やっとその日を暮らしていました。

 ある日の事、山へしばをかりに出かけた太郎は、大雨に降られて、びしょぬれになって帰ってきました。
 お母さんは太郎の体をふいて暖めましたが、その夜、太郎は高い熱を出してしまいました。
 お医者さんに診てもらいたくても、お金がないので出来ません。
「せめて、薬があればねえ」
 熱が下がらずに苦しそうな太郎を、お母さんは一生懸命看病しました。
 何日かたつと、さすがにお母さんもくたびれて、太郎の枕元でうとうとと眠ってしまいました。
 するとどこからか、可愛らしい声が聞こえてきます。
「あの、もしもし、太郎のお母さん」
 声に目を覚ましたお母さんが、はっとして部屋を見回すと、部屋のすみにしじみが一つ転がっています。
「まさか。しじみがしゃべるはずは」
 お母さんがそう言うと、しじみはコロコロと転がりながら、お母さんのそばにやって来て言いました。
「いえ、声をかけたのはわたしです。
 わたしは小川に住んでいるしじみですが、この前の大雨で流されてきました。
 このままでは、わたしたちしじみは海に流されて、塩水で死んでしまいます。
 お願いです。
 どうかわたしたちを、川上の水のきれいな所へ、戻していただけないでしょうか?」
 それを聞いたお母さんは、にっこり笑いました。
「そんな事、お安いご用ですよ」
 するとしじみは安心した様に、コロコロと部屋から出て行きました。
 しじみがいなくなると、お母さんは、
(はて、今のは夢だったのかしら?)
と、首をかしげながらも、ザルを持って家を出ました。
 そして月明かりにキラキラと流れる小川に顔を近づけて見ると、確かに川底にはしじみがたくさんいます。
「大変。夢でも本当でも、とにかくしじみを助けなきゃ」
 お母さんは冷たい水の中にザルを入れてしじみをすくうと、それを持って山を登りました。
 そして湧き水に近い静かできれいな流れに、そっとしずめてやりました。
 それからまた戻って、もう一度しじみをザルですくい山へ連れて行きました。
 それを何度も何度も繰り返して、ようやく全てのしじみを救い出すと、しじみたちは声をそろえてお母さんに言いました。
「どうも、ありがとう。お礼に、太郎さんの病気を治してあげますよ」
 それを聞いたお母さんは、にっこり笑って山を下りました。
 家に帰ると、高い熱で寝ていた太郎が元気に出迎えてくれました。
「お母さん、おかえりなさい」
「おや、まあ!?」
 お母さんが太郎の熱をはかってみると、うその様に下がっています。
「あのね、夢の中にしじみが現れて、助けてくれたお礼だといって薬を飲ませてくれたんだよ」
「そうかい、それはよかったね」
 それから太郎とお母さんは、いつまでも幸せに暮らしました。

 

おしまい

 

ふりがな

 

聴: 

 

 

千亀女(せんかめじょ)

むかしむかし、小川おがわのそばの小ちいさな家いえに、太郎たろうという男おとこの子こがお母かあさんと二に人にんで暮くらしていました。
 まだ
子供こどもの太郎たろうは、お母かあさんを助たすける為ために、それはよく働はたらきます。
 
山やまへたき木きを取とりに行いったり、近ちかくの家いえに手伝てつだいに行いったり。
 そうして
食たべ物ものをもらっては、やっとその日ひを暮くらしていました。

 ある
日ひの事こと、山やまへしばをかりに出でかけた太郎たろうは、大雨おおあめに降ふられて、びしょぬれになって帰かえってきました。
 お
母かあさんは太郎たろうの体からだをふいて暖あたためましたが、その夜よる、太郎たろうは高たかい熱ねつを出だしてしまいました。
 お
医者いしゃさんに診みてもらいたくても、お金かねがないので出来できません。
「せめて、
薬くすりがあればねえ」
 
熱ねつが下さがらずに苦くるしそうな太郎たろうを、お母かあさんは一生懸命いっしょうけんめい看病かんびょうしました。
 
何なん日にちかたつと、さすがにお母かあさんもくたびれて、太郎たろうの枕元まくらもとでうとうとと眠ねむってしまいました。
 するとどこからか、
可愛かわいらしい声こえが聞きこえてきます。
「あの、もしもし、
太郎たろうのお母かあさん」
 
声こえに目めを覚さましたお母かあさんが、はっとして部屋へやを見回みまわすと、部屋へやのすみにしじみが一ひとつ転ころがっています。
「まさか。しじみがしゃべるはずは」
 お
母かあさんがそう言いうと、しじみはコロコロと転ころがりながら、お母かあさんのそばにやって来きて言いいました。
「いえ、
声こえをかけたのはわたしです。
 わたしは
小川おがわに住すんでいるしじみですが、この前まえの大雨おおあめで流ながされてきました。
 このままでは、わたしたちしじみは
海うみに流ながされて、塩水えんすいで死しんでしまいます。
 お
願ねがいです。
 どうかわたしたちを、
川上かわかみの水みずのきれいな所ところへ、戻もどしていただけないでしょうか?」
 それを
聞きいたお母かあさんは、にっこり笑わらいました。
「そんな
事こと、お安やすいご用ようですよ」
 するとしじみは
安心あんしんした様ように、コロコロと部屋へやから出でて行いきました。
 しじみがいなくなると、お
母かあさんは、
(はて、
今いまのは夢ゆめだったのかしら?)
と、
首くびをかしげながらも、ザルを持もって家いえを出でました。
 そして
月明つきあかりにキラキラと流ながれる小川おがわに顔かおを近ちかづけて見みると、確たしかに川底かわぞこにはしじみがたくさんいます。
「
大変たいへん。夢ゆめでも本当ほんとうでも、とにかくしじみを助たすけなきゃ」
 お
母かあさんは冷つめたい水みずの中なかにザルを入いれてしじみをすくうと、それを持もって山やまを登のぼりました。
 そして
湧わき水みずに近ちかい静しずかできれいな流ながれに、そっとしずめてやりました。
 それからまた
戻もどって、もう一度いちどしじみをザルですくい山やまへ連つれて行いきました。
 それを
何なん度ども何なん度ども繰くり返かえして、ようやく全すべてのしじみを救すくい出だすと、しじみたちは声こえをそろえてお母かあさんに言いいました。
「どうも、ありがとう。お
礼れいに、太郎たろうさんの病気びょうきを治なおしてあげますよ」
 それを
聞きいたお母かあさんは、にっこり笑わらって山やまを下おりました。
 
家いえに帰かえると、高たかい熱ねつで寝ねていた太郎たろうが元気げんきに出迎でむかえてくれました。
「お
母かあさん、おかえりなさい」
「おや、まあ!?」
 お
母かあさんが太郎たろうの熱ねつをはかってみると、うその様ように下さがっています。
「あのね、
夢ゆめの中なかにしじみが現あらわれて、助たすけてくれたお礼れいだといって薬くすりを飲のませてくれたんだよ」
「そうかい、それはよかったね」
 それから
太郎たろうとお母かあさんは、いつまでも幸しあわせに暮くらしました。

おしまい

 
 
 
 
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